- 更新日 2024.10.17
- カテゴリー システム開発
サービス運用とは?変化する運用・管理の考え方を「ITIL 4」とともに解説【2024年最新版】
「サービス運用あるいはサービスマネジメント(サービス管理)、ITIL(アイティル)という言葉をよく耳にするようになった」そのように感じるIT担当者の方のなかには、そういった用語をよく目にするものの、
・サービス運用とは?
・システム運用・保守となにが違うのだろう?
・「ITIL」とはなんのことだろう?
・「ITIL」が示唆する今後のサービス運用のあり方は?
と感じている人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、サービス運用とはどういうことを一般的に指しているのか、システム運用・保守との違いは何か、「ITIL」とはどういうもので、今後のサービス運用とどのような関係があるのかについて解説していきます。
※サービス運用に定評のある優秀なシステム開発会社を探している方は、システム幹事にご相談ください。専任のアドバイザーが最適な会社をご紹介します。相談料などは一切かかりませんので、お気軽にお問い合わせください。
サービス運用とは
サービス運用という言葉に明確な定義はありません。ITの世界で「サービス運用(Service Operation)」といった場合は「ITサービス全体を継続的に改善していくために取り組んでいくこと」と捉えられることが一般的です。
類似の言葉にサービス管理(Service Management)があります。サービス管理が「ITサービス全体を継続的に改善していくための管理」とすれば、サービス運用はその一部だといえます。
しかし「継続的な改善」は、管理・運用のどちらが欠けても実現できません。文脈のなかで使い分ける場合があるかもしれませんが、サービス運用・管理は、どちらもほぼ同じ意味で使われていると考えておけばいいでしょう。
従来のシステム運用・保守
一方、従来から使われている「システム運用・保守」という言葉は「サービスを構成する一部であるITシステムを安定的に運用して改善していく活動」です。システム運用・保守の具体的な作業内容は以下の通り。
作業内容 |
対応領域 |
|
システム監視 |
サーバ、ネットワーク、 アプリケーションなどの稼働状況を監視 |
システム運用 |
システムオペレーション |
セキュリティパッチ適用、サーバ再起動、 バックアップ、 マニュアルに従った障害時の一次対応 |
システム運用 |
保守へのエスカレーション |
一次対応で障害が復旧しない場合、保守担当へ対応を依頼 |
システム運用 |
障害の原因究明・復旧 |
システム管理者と連携して障害の原因を特定して復旧させる |
システム保守 |
システムの改善提案・実施 |
障害の再発防止に向けた改善を提案、実施 |
システム保守 |
セキュリティパッチ(修正プログラム)適用は、システム運用のなかでも重要な業務。サーバーOS・ミドルウェアのベンダーから公開されたセキュリティパッチをすぐに適用し、システムの安全性を担保します。
システム運用についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:システム運用とは?作業内容、保守との違い、運用会社選びの重要ポイントをわかりやすく解説
システム運用・保守との違い
システム運用
システム運用・保守はあくまでもサービスの一部であるITシステムを安定稼働させることが目的。改善提案や改善策の実施を受け持つことはあっても、安定稼働を目的としています。いわば「マイナス(トラブルとなっている)システムをゼロ(正常)に戻す」のがシステム運用・保守の役割です。
サービス運用
継続的な改善によってITサービスの価値を高め、利用者・ステークホルダーの期待に応えることが目的です。「サービスをプラス方向へ改善する」ため、従来のシステム運用・保守とは異なった役割を担うことも珍しくありません。たとえば、サービス運用のなかで得られた情報をもとに、ビジネス状況を分析して改善に向けた施策を提案するなども実施されます。
サービス運用にシフトする企業が増えている理由
近年、従来型のシステム運用・保守から、サービス運用へとシフトする企業は増加する傾向にあります。これはDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて、ITを取り巻く環境が大きく変化していることが背景にあると考えられます。2020年に実施された総務省の調査によると、なんらかの形でクラウドサービスを利用している企業は全体の約7割。過去5年間でクラウドサービスを利用する企業が約25%増加しています。
クラウドの拡大で運用業務が変化
オンプレミスで保持していた社内のデータベースを、クラウド管理することが増えてきました。クラウドでは、基本的にクラウドサービス提供側がサーバの監視・管理をします。そのため、クラウドサービス利用者側はサーバー管理・管理が不要です。
AWS/Azureなどのパブリッククラウドを活用すれば、柔軟な運用が可能になり、万一の場合のBCP対策も同時にできます。
※BCP対策:自然災害などの緊急事態に直面しても企業が事業を継続または復旧するための対策
クラウドであれば、CPUリソースやストレージのキャパシティを比較的自在に変更できます。時間帯に応じてネットワークトラフィックも調整設定ができるのです。
監視の自動化は以前から進められており、システム運用の作業内容は主にオペレーションに集約される形になりつつありました。しかし、システム運用に求められる業務内容が変化し、運用にもサービス改善を通じたビジネスへの貢献が求められているのです。
アジャイル型システム開発の浸透
日本におけるシステム開発の手法は「要件定義」>「設計」>「構築」>「テスト」と、水が上流から下流に流れるように工程を進めていく「ウォーターフォール型」がほとんどでした。ひとつの工程を完了させてから次の工程に取り掛かるウォーターフォール型では、「テスト」>「リリース」の後工程として「運用・保守」が位置付けられています。そのため、従来のシステム運用・保守のあり方は馴染みやすいものだったといえます。
しかし、近年ではシステム全体を細かい機能に分割し、優先度の高い機能から構築・リリースを繰り返していく開発手法「アジャイル型」が採用されることも多くなっています。これはニーズの多様化する現代では、ユーザーの声を素早く取り入れてサービスを進化させていく必要があるためです。とくに、ECサイトやSNSなどのWebサービス・アプリ、ゲームなど、常にアップデートが必要なシステム開発には、アジャイル開発が適します。
細かなリリースごとにシステム変更が加えられるウォーターフォール型の場合、従来のシステム運用・保守では対応が困難。一方、サービスの継続的な改善が大前提となるサービス運用の概念は、アジャイル型によくマッチするといえるでしょう。
アジャイル型システム開発についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:アジャイル開発とは?メリット・デメリット、発注側の注意点を解説
DevOpsという概念の登場
システム運用・保守の目的は「システムを安定的に稼働させるように運用・改善すること」です。当然、運用側はシステムを安定稼働させるために保守的(安定したシステムを望む)な考え方になりがちで、革新的(新しい技術を望む)な考えを持つ開発側と対立が起こりがちです。
こうした矛盾を解決するために登場した概念が「DevOps」です。
DevOpsとは、開発(Development)と運用(Operations)を掛け合わせた造語。文字通り、開発と運用がシームレスに連携し、サービスの継続的改善を進めていく仕組みです。
ユーザーの嗜好・ニーズの多様化、プロダクトのライフサイクル短縮化が顕著な現代では、素早くサービスを提供できるアジャイル型とともに、継続的な改善に有効なDevOpsはキーとなる技術・概念。サービス運用へシフトする下地は出揃っているといえます。DevOpsに沿った開発をするとバグの減少や市場投入までの時間を短縮できるメリットが、サービス運用の改善につながるのです。
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とは
ITを取り巻く環境の変化は、ここ数年で起こったわけではありません。個別の企業ごとに環境の変化に対応することはあっても、全体的な流れとしてサービス運用へのシフトが始まったのは、2019年にリリースされた「ITIL 4」がキッカケだったといってもいいでしょう。
ITIL(アイティル)とは、ITサービスマネジメント(IT Service Management = ITSM)の成功事例をまとめた書籍群のこと。ITSMとはITサービスの計画・供給・改善を管理するフレームワークであり、主なものには「ISO 20000」「COBIT」などがあります。ITMSの導入は「ビジネス視点でのITサービス運用へ転換」「IT業務のルール化」「コスト適正化」などの効果を期待できますが、ITILはその成功事例を体系化して紹介したもの。世界中からITサービス運用・管理の参考に利用されているのがITILです。
ITIL 3のサービスライフサイクル
1989年に初版が刊行されたITILは、何度かの改訂が繰り返されていますが、日本でもっとも浸透しているのが2007年に刊行され、2011年の修正を経た「ITIL v3 / 2011」です。
ITIL v3では、ITサービスのライフサイクルが「サービスストラテジー」「サービスデザイン」「サービストランジション」「サービスオペレーション」「継続的サービス改善」の5つのフェーズに分類され、それぞれでやるべき「プロセス」が決められています。これがITIL v3の「サービスライフサイクル」です。
サービスストラテジー
サービスストラテジーとは、どのようなITサービスを提供し、ユーザーにどのような価値を与えるのか、事業目標を達成するためのITサービス戦略を立案する段階です。ここでのプロセスには「財務管理」「需要管理」「サービスポートフォリオ管理」などが含まれます。
※サービスポートフォリオ:保有するITサービスの現状資産をリスト化したもの。計画・準備中、稼働・提供中、提供中止・廃棄など、ITサービスの各状態を一覧できる。
サービスストラテジーは、ITILの主軸の役割を担っています。
サービスデザイン
サービスデザインとは、ITサービスの新規構築・既存サービスの変更を含め、サービスストラテジーの決定に従ってITサービスを設計・変更していく段階です。このプロセスには「サービスカタログ管理」「サービスレベル管理」「キャパシティー管理」などが含まれます。
※サービスカタログ:現在エンドユーザーに向けて提供中のITサービスをまとめたリスト
※サービスレベル:ユーザーに提供しているITサービスの内容と品質
サービスデザインにより、品質や見込まれる効果などを把握しながらサービス設計・変更を行えるのです。
サービストランジション
サービストランジションとは、新規ITサービスの提供や、既存サービスから新規サービスへ移行させるフェーズのこと。このフェーズのプロセスには「変更管理」「サービス資産・構成管理」「移行計画・支援」などが含まれます。
サービスデザインから引き継ぎ、各作業間の調整は移行計画立案して、サポートの構成に入ります。
サービスオペレーション
サービスオペレーションとは、サービスデザインで決定したサービスレベルに従い、ITサービスを運用していく段階です。
「イベント管理」「インシデント管理」「リクエスト対応」「アクセス管理」「問題管理」などが含まれ、機能としての「サービスデスク」の存在が重要な意味を持ちます。
※インシデント管理:ユーザーがシステムを利用できなくなった際に、その原因を解消してシステムが正常に再稼働できるようにするサポート
効果測定・モニタリングなどの、改善行動も行う必要もあります。
継続的サービス改善
継続的サービス改善とは、ここまでに紹介したすべてを俯瞰し、PDCAサイクル化でITサービスを継続的に改善していくフェーズです。
サービスのパフォーマンスを正確に測定するのは、難しいです。正確に測定して、改善点を洗い出すには、ITSMSが必要です。継続的サービス改善のフェーズで、ユーザーからの問い合わせ内容を自動で集めて、改善に必要なデータの収集や分析ができるようになります。ここまでの解説でもお分かりのように、ITサービスを5つのフェーズに分類し、企画・構築・運用を段階的に進めていく「ITIL v3」は、ウォーターフォール型システム開発と考え方が近いといえます。
ウォーターフォール型システム開発の詳細は下記記事をご参照ください。
関連記事:ウォーターフォール型システム開発とは?開発工程・メリット・アジャイル型との違いを解説!
大きく変化したITIL 4のサービスバリューシステム(SVS)
「ITIL」に大きな変化が生じたのは、2019年に刊行された「ITIL 4」から。もっとも大きな変化は、ITIL v3で根幹を成していた「サービスライフサイクル」の概念がなくなり、ITサービスの価値を創造する概念として「サービスバリューシステム(SVS)」が登場したことです。
SVSとは、「指針となる原則」「ガバナンス」「サービスバリューチェーン」「プラクティス」「継続的な改善」という5つのコンポーネントが、ひとつのエコシステムとして機能することで、ITサービスの価値を創造する考え方のことです。
- ガバナンス:健全な企業の経営に必要な管理体制構築・企業の内部統治
- サービスバリューチェーン:ニーズに応じて作成された商品・サービスやそれの開発とマネジメント活動を体系化したもの
「機会・需要」が、SVSエコシステムを経て「価値」になることを示しています。
サービスバリューチェーン
画像引用:システム管理者の会
SVSのなかで、ITサービスに直接的に関連する要素が「サービスバリューチェーン(SVC)」です。ユーザーの「需要」を取り込んだSVCは、「エンゲージ」「計画」「デザイン&トランジション」「オブテイン&ビルド」「デリバリー&サポート」「改善」という6つの活動を経たのち、プロダクト&サービスという形でユーザーに「価値」を提供します。
※エンゲージ:顧客・ユーザエクスペリエンス
プロセスに代わる概念「プラクティス」
従来の「ITIL v3」であれば、SVCを構成する6つの活動に「具体的な指針であるプロセス」が当てはめられていたはず。しかし「ITIL 4」ではプロセスの概念がなくなり、3つの管理項目ごとにやるべきことを割り振った「プラクティス」という新たな概念が登場しています。
プラクティスは、作業を実行して目標を実現するための組織的リソースを指します。
ゼネラル管理プラクティス |
サービス管理プラクティス |
技術管理プラクティス |
戦略管理 |
サービスレベル管理 |
展開管理 |
サービスポートフォリオ管理 |
可用性管理 |
インフラ・プラットフォーム管理 |
サービス財務管理 |
サービスカタログ管理 |
ソフトウェアの開発と管理 |
関係管理 |
サービス構成管理 |
|
サプライヤー管理 |
サービス評価とテスト |
|
ナレッジ管理 |
サービス継続性管理 |
|
情報セキュリティ管理 |
サービスリクエスト管理 |
|
継続的改善 |
変更コントロール |
|
アーキテクチャー管理 |
リリース管理 |
|
労働力と人材の管理 |
キャパシティとパフォーマンスの管理 |
|
リスク管理 |
モニタリングとイベントの管理 |
|
組織レベルの変更管理 |
インシデント管理 |
|
プロジェクト管理 |
問題管理 |
|
測定とレポート |
サービスデスク |
|
ビジネス分析 |
||
サービスデザイン |
||
IT資産管理 |
※ITIL v3から継承されたプラクティス
※ITIL v3から大幅に変更されたプラクティス
※ITIL 4から新たに追加されたプラクティス
全34種類となった各プラクティスは、SVCの概念と相まって、もはや「フェーズごとにやるべきこと」という考えがなくなっていることに気が付きます。
システム運用からサービス運用への変化
ITIL v3では利用者にITサービスを提供していくため「どのようにシステムを運用・改善していくのか」に主眼が置かれていました。対してITIL 4では、利用者に価値あるITサービスを提供するため「どのようにサービス全体を改善・運用していくのか」へと考え方が変化しているといえます。
フェーズごとに「プロセスを誰がやるのか」が明確だったITIL v3と異なり、誰がプラクティスを受け持つかという「境界・役割」が広がっているのもITIL 4の特徴です。これは事業部と開発部の一体化が必要なアジャイル型開発、開発と運用の一体化が必要なDevOpsに近い考え方です。
世界中のベストプラクティスを集めたITILの変化は、ユーザーのエンゲージメントを獲得するため、ITサービス運用になにが求められているのか?今後の方向性を示唆するものなのだといえるでしょう。ただしサービス運用の際に、自動化にこだわりすぎるのも注意が必要です。自動化を実現させるにも技術が必要で、手動の際とは違った面で属人化が生じる可能性があるためです。
クラウドでのサービスは常に新たなニーズが絶えず生まれます。そのため、自動にする範囲や内容は事前に組織内で定め、サービス運用ルールも統一することが重要です。
サービス運用のキーはサービスデスク
継続的な改善を前提としたサービス運用へとシフトするためにはどうすべきなのか?新たなプラクティスが多数追加されたITIL 4を、すぐに実践するのは簡単ではありませんが、多くの企業が「サービスデスク」の強化を優先事項としているようです。これは、ITIL 4で「サービス運用・管理のキーとなる機能がサービスデスク」と定められているからです。
サービスデスクの機能には、ITサービスの改善に直結する「要求実現」「構成管理」「インシデント管理」「問題管理」「変更管理」などの事例が含まれます。サービスデスクを強化することによって、サービス運用の第一歩となる情報を集めることができるでしょう。
ただしサービス運用には、顧客からのクレーム対応も含まれます。そのため、対応するスタッフの精神的な負荷が重なりやすいです。対策としては、サービスデスクで電話がしやすいように防音対策をしたり、スタッフ同士のメンタルケアをするための施策する必要があります。営業支援システムを導入すれば、クレーム対応にはベテランのスタッフに自動振り分けできます。
サービス運用まとめ
サービス運用の概念を知りたい方に向け、本記事では、定義の曖昧なサービス運用とはなにか?システム運用・保守との違いやサービス運用が注目される理由を、サービスマネジメントのフレームワークともいえる「ITIL」とともに解説してきました。
ユーザーの嗜好・ニーズが多様化する現代では、ITサービスへのエンゲージを高めていくため、改善を前提としたサービス運用の概念が必要です。そのためには、SVSを共に構築できる、パートナーとしてのシステム開発会社、システム運用会社の存在が不可欠となるでしょう。
※サービス運用に定評のある優秀なシステム開発会社を探している方は、システム幹事にご相談ください。専任のアドバイザーが最適な会社をご紹介します。相談料などは一切かかりませんので、お気軽にお問い合わせください。
コンサルタントのご紹介
岩田
専任のコンサルタントが、
お客様の予算と目的を丁寧にヒアリング。
最適な会社をピックアップ・ご紹介させていただきます!
初心者の方でも安心してご相談いただけます。
Q. サービス運用とは何ですか?
サービス運用とは、ITサービス全体を継続的に改善するための取り組みです。サービス運用の目的として「ITサービスの価値向上」「利用者・ステークホルダーの期待に応える」等が挙げられます。
Q. サービス運用とは?
サービス運用とは「ITサービス全体を継続的に改善していくために取り組んでいくこと」です。詳細は記事内で紹介していますので、ぜひご覧ください。
この記事を書いた人
梓澤 昌敏
専門分野: 音楽・映像制作、オウンドメディア、ビジネス
音楽・映像制作の現場を経て、スタジオ構築側の業界へ。マネージャー・コンサルタントとして制作現場の構築に携わる一方、自社オウンドメディアの立ち上げを含むマーケティングも担当してきました。現在アメリカ在住。作曲を含む音楽制作も提供しています。
このライターの記事一覧