- 更新日 2024.10.17
- カテゴリー システム開発
システム保守を移管する流れ!引継ぎのポイントも解説
自社でシステムを保守しているが、負担が大きいためベンダーに移管しようと考えている企業は多いかと思います。保守の精度はシステムの品質に直結するため、実力が確かなベンダーに外注したいものです。
本記事では、保守移管の概要とメリット、移管を成功させるポイントなどを解説します。
なお、保守を移管できる会社の探し方・選び方がわからない!という方はシステム幹事にお気軽にご相談ください。貴社の目的・予算にあった最適な会社を厳選してご紹介します。相談料・会社紹介料などは無料です。
保守移管とは?
保守移管とは、システムを開発した会社とは別のベンダーに保守を委託、もしくは自社で行っていた保守を外注することです。
保守とは、障害が発生した際に原因を究明してシステムを復旧・修正する業務です。例えば「ECサイトで決済ができない」「勤怠システムにログインできない」などの障害が発生した場合、責任者と連携して早期復旧に当たります。復旧が完了したら、その後の対応策を講じます。
また、ソフトウェアのバージョンアップやハードウェアの老朽化による交換も保守の1つです。
運用と保守の違い
保守と混同しやすい運用ですが、両者の違いをまとめると以下の通りです。
- 運用:システムを管理・監視し、稼働状況を常に把握する
- 保守:障害が発生した際に原因を究明してシステムを復旧・修正する
両者の違いは、システムに手を加えるか否かです。運用はあくまで監視がメインなので、改修・交換などの業務は該当しません。一方、保守はシステムの品質を維持向上させるために、バージョンアップやハードウェアの修理など何かしら変更を加えます。
クルマに例えると運用が「ガソリン補給・日々の運転」で、保守が「エンジン修理・オイル交換」といったイメージです。
保守移管の検討をおすすめするケース5つ
次に、保守移管をおすすめするケースを5つ紹介します。本当に保守移管が適切か判断できるので、参考にしてください。
保守費用が高額
保守費用が負担になっている場合は、別のベンダーに移管する方がいい可能性があります。
システムにもよりますが、保守費用の相場(運用含む)は開発費の5~15%程度で、毎月発生します。例えば、開発費が1000万円の運用・保守費用相場は50~150万円/月程度です。もし、毎月200万の運用保守費がかかっているなら、1年間で相場より600万円以上予算を圧迫していることになります。
特に明確な理由なく保守費用がかさんでいるなら、移管を検討したほうがいいでしょう。
関連記事:システム運用コストの相場は?内訳と削減のポイントも解説
外注先の対応が不親切
外注先の対応が良くないのも、移管を検討すべきケースの1つです。
保守とは不具合が発生したときの復旧や部品取替がメインなので、対応が遅れると深刻なシステム障害につながります。また担当者が協力的でない、ミスが多いなど能力に難があると、どれだけ評判のいいベンダーでも保守品質は保てないでしょう。
そして、外注先によっては下請け、孫請けなど多重下請け構造になっているケースも珍しくありません。多重構造による対応遅れが原因になったり、担当者が「下請けの対応なので」と他人事のように接するケースもあります。
保守は委託先のスピーディかつ誠実な対応にかかっているので、ここに難があるのなら別のベンダーに移管しましょう。
外注先が倒産・廃業
外注先の倒産も保守移管を検討するいい機会です。
システムそのものは長期で保守するケースが多いため、お付き合いをしている最中に外注先の業績が悪化するケースはあります。倒産まではないにしても、方針転換で保守サービスから撤退することもありえるでしょう。
また、個人や小規模の会社に外注していると、突然連絡がつかなくなる可能性が少なからずあります。
「最近外注先が業績不振に陥っている」「個人に外注しているが、連絡が滞りがち」というなら、移管を検討する価値はあるでしょう。
開発会社が保守を敬遠
ベンダー側が保守を敬遠する場合も、移管を検討したほうがいいでしょう。
他社が手掛けたシステムを保守するのは、ベンダーにとって大きな負担が伴います。システムの開発背景や開発会社の設計思想、実装手順を追っていかなければいけないからです。
設計書や実装のドキュメントなど、資料が整備されてたらまだスムーズに進みますが、そのようなケースは少ないのが現状。既存のシステムや最低限の資料だけで保守のみ任されると、解析に時間がかかる上に不具合が起こった際に初動も遅れます。
このような背景から、保守移管を避けるベンダーは少なくありません。現在の外注先が保守に乗り気でないのなら、別の会社に委託したほうが吉といえます。
自社での保守が困難
自社で保守しきれない場合も、ベンダーに移管をすれば品質が向上する可能性が高いです。保守は専門知識と経験が求められるため、人材の確保・育成が難しいといわれています。
また、人材の希少性ゆえに属人化しているケースも少なくありません。属人化とは特定の社員にノウハウが蓄積されて、他者に共有されていない状態のこと。担当者が転職や退職でいなくなると、いざ不具合が発生した際にコードが読めなかったり、ノウハウが蓄積されていなかったりと、保守が後手に回るかもしれません。
このように自社で保守できる人材や環境が不十分な場合は、ベンダーに移管することで解決できるケースが多いです。
保守を移管するメリット2つ
次に、保守を移管するメリットを2つ紹介します。
システムの品質を高められる
開発会社の知見を得られるため、既存のシステムの問題点や課題が浮き彫りになります。
それらを改善すれば、ダウンタイム縮小や稼働速度向上といったシステムの品質向上を期待できます。
また、優秀な開発会社であれば、必要に応じてシステムのリニューアルも提案してくれるでしょう。特にレガシーシステムやブラックボックス化しているシステムなら、保守の品質を高めるためにシステムを刷新したほうがいいケースもあります。
このように保守を移管すると、保守のクオリティを高めやすくなります。
保守費用を節減できる
外注先を変えれば、以下のように経費に繋がる問題を解消できます。
- 不十分な保守をカバーするために、人員を配置しなくていい
- 不具合発生の対応遅れによる損失(サイト停止、損害賠償など)を避けられる
保守作業は人員を必要とする割には付加価値が伴わないため、予算を圧迫するケースが多いです。よりいい外注先に委託すれば、浮いた時間と人員を研究開発や新規営業などにリソースを注ぐことができます。
またトラブルが発生した際に、外注先の対応遅れによる損害も回避できるでしょう。特にセキュリティインシデントの対応遅れは深刻で、過去には数千万円の損害賠償に発展した事例もあります。
そもそも、理由なく相場より高いケースもあるので、外注先を変えるだけで費用面の解決は期待できます。
保守移管を外注する流れ6ステップ
ここでは、保守移管の流れを解説します。どのステップも疎かにできないので、じっくり読んでください。
【ステップ1】現状把握
保守を移管する前に、システムの現状を把握しましょう。確認すべき項目は以下の通りです。
- システムの開発背景
- 開発時期
- 運用期間
- 開発費用
- 現在の外注先(開発会社、保守会社含む)との関係性
- 保守の契約内容
- トラブルの内容(発生頻度・復旧時間など)
開発に至った経緯からさかのぼれば、移管先に求める保守も明確になります。
【ステップ2】外注先の選定
システムの現状把握ができたら、どこに外注するか決めましょう。
システム保守を請け負ってくれるベンダーはたくさんありますが、どこでもいいわけではありません。選定を誤ると「前の外注先の方がマシだった」と後悔するでしょう。
外注先の選び方は、以降の章で詳しく解説します。
【ステップ3】費用の確認
外注先を決めたら、相手方と保守移管の費用を詰めましょう。保守費用には主に以下の2項目に分けられます。
- 初期費用:過去の契約内容をベースにシステムを解析する費用
- 月額費用:ソフトウェア更新・改修、ハードウェア交換などにかかる費用
「保守なのに、なぜ初期費用?」と驚くかもしれませんが、保守品質を高めるためには最初の解析が重要になります。特にレガシーシステムのように、更新がされていなかったり場当たり的に拡張・改修が進んでいたりすると、システムの原型をとどめていないケースも少なくありません。
そうなると、保守以前にシステムの構造理解に時間を取られるため、初期費用が必要になります。
【ステップ4】契約
費用に納得できたら、依頼した内容(保守対象、金額、納期など)に違反しないために契約を交わしましょう。なお契約で見落としてはいけない項目は以下の通りです。
- 責任の所在:「費用」「クオリティ」「納期」などでトラブルを避けるため
- 再委託の可否:多重構造だと品質を担保できない可能性あり
- 契約不適合責任の範囲・期間:不備があった場合に十分に修正対応してもらえない
- 損害賠償の制限・範囲:契約と違うことがわかっても賠償に応じてもらえない
口約束でも契約は成立しますが、大勢の人が関わるシステム保守で責任所在やルールが不明瞭だとトラブルを招きます。契約内容に少しでも疑問があったら、納得できるまで協議しましょう
関連記事:システム開発の契約とは?契約形態・契約書の注意点を解説【2024年最新版】
【ステップ5】移管実施
契約が決まったら、いよいよ移管の実施です。ベンダーにもよりますが、以下の流れで既存の外注先(もしくは自社保守)から切り替えます。
- 外注先が既存ベンダーの保守・運用作業を習得
- ユーザ窓口・運用・保守作業を外注先がプレ実施運用
- 保守業務の習熟度をチェックし、インシデントの温度感、企業文化などを把握
- 既存ベンダーと新たな外注先が運用・保守業務を並行して実施
- 問題なければ、切り替え
システムの規模にもよりますが、移管は1ヶ月半~10ヶ月を見込んでおくといいでしょう。
【ステップ6】継続的なコミュニケーション
移管が終わっても、担当者とのコミュニケーションは欠かさないようにしましょう。特に、既存システムの問題点の洗い出しや保守が発生したときの対応はよく観察してください。
また、発注者から積極的に情報提供することも大切です。「ここのハードウェアを見てほしい」「社外に公表していないがこのような事象があった」など、できる限り共有しましょう。
普段からこのようなやり取りをしていれば、いざ不具合が発生しても迅速に対応してもらえます。
保守移管の外注先を選ぶポイント5つ
ここでは、保守移管の外注先を選ぶポイントを5つ紹介します。
保守したいシステムの実績はあるか
保守してもらうシステムの保守実績があるか確認しましょう。
例えば金融、社内システム、生産管理など各ジャンルで保守実績があると信用できます。
なお、実績を確かめる際には、以下のように実績の中身もチェックしてください。
- 自社のシステムに似たシステムの保守事例はあるか
- 保守品質が高い理由とこだわりポイントは何か
例えば、鉄道や医療などは少しでもダウンタイムが長いと社会に影響を与えるため、システムの裏側や業界の背景知識がないと対応しにくいでしょう。
このように、システムを運用する業界の知識にも明るいか調べましょう。この辺りは公式サイトではわからないケースも多いので、直接問い合わせてください。
外注先の業績は安定しているか
外注先の業績も重要なポイントです。いざ保守をお願いしようとしたときに外注先が倒産してしまっては、また1から委託先を探す必要があるからです。仮に倒産しないまでも、人材不足や経営悪化などの要因で保守事業から撤退するケースは考えられます。
外注先の安定性を見るポイントは以下の2つです。
- 創業年数:5年以上
- 社員規模:30人以上
5年未満だと、経営がまだ軌道に乗っていない会社は少なくありません。また社員規模が30人を切ると、少しの人員減やスタッフの配置換えで経営に悪影響を与えることもあります。
あくまで目安ですが、経営の安定度を見極める上で参考材料の一つにしてください。
担当者とのやりとりはスムーズか
どれだけ実績のある会社でも、担当者とそりが合わなければ質の高い保守は期待できません。以下の点は必ずチェックしましょう。
- 素人でもわかるように丁寧に説明してくれるか
- 問い合わせがあったらすぐに連絡してくれるか
- 落ち度があっても言い訳しないか
- 保守会社側の都合を押し付けていないか
- さらにシステムの品質が良くなるよう改善提案をしてくれるか
担当者が自社の一員のように接してくれたら理想です。
見積もりが相場から外れていないか
保守費用の見積もりが相場から外れていないか確認しましょう。相場は運用費も含めて開発費の5~15%です。
特に安い場合は要注意です。優秀なエンジニアを雇うお金を渋って、ずさんな保守をしているかもしれません。いざ不具合が発生すれば、保守品質の低下による損害の方が大きくなります。
必ずしも相場から外れることが悪ではないですが、見積もり金額に疑問がある場合は理由を聞きましょう。
チームで保守に対応してくれるか
チームで保守に対応するかも聞いてください。特に小規模な会社は保守担当が1~2名しかいないということはザラです。
また、比較的大きな外注先でも属人化が発生していれば、安定した保守は期待できません。「保守チームは何人いるのか」「いざというときに誰でも対応してくれるのか」などを確認しましょう。
保守移管の外注を成功させるポイント4つ
どれだけ優秀なベンダーでも、準備が不十分だと移管はうまくできません。ここでは保守移管を成功させるポイントを4つ紹介します。
複数社に相見積もりを出す
保守を外注する際には3~4社に相見積もりを出しましょう。1社だけだと、同じ品質で安く発注できるベンダーを逃す可能性があります。一方で何十社と見積もりを出すと、似たり寄ったりに見えて選べなくなります。
3~4社なら混乱することもない上に、同じ発注条件で比較検討しやすくなるでしょう。各社の特徴も見えるので、社内での意思統一もスムーズに進みます。
見積もりについて詳しく知りたい人は、下の記事も読んでください。新規開発の見積もりに関する記事ですが、保守の外注でも役に立ちます。
関連記事:システム開発見積もりの内訳は?サンプル例も紹介【2024年最新版】
保守に知見のある社員を用意する
自社にもシステム保守に知見のある社員を配置しましょう。外注先とのコミュニケーションが取りやすくなるうえに、的外れな要望をして関係を悪化させるリスクも低くなります。
また、保守移管を通じて外注先のノウハウが手に入ったら保守の内製化やコストカットも期待できます。もし、人材の確保が難しいなら未経験から育成するのも有効です。役立つ資格をまとめたので、人材育成のたたき台にしてください。
主な資格 |
概要 |
運営元 |
基本情報技術者 |
|
IPA |
応用情報技術者 |
|
IPA |
ネットワーク スペシャリスト |
|
IPA |
ITサービス マネージャ |
|
IPA |
Oracle Master |
|
日本 オラクル |
Linux技術者 認定 |
|
LPI |
引継ぎ資料を準備する
引継ぎ資料がないと、外注先の初期解析の負担が大きくなります。解析が長びくと、費用もかさむ上に保守の品質が落ちる可能性も否めません。スムーズに保守を依頼できるよう、最低限下記の資料は用意しましょう。
- システムの関係者と連絡先
- 要求定義書:システムで実現したいことを明確にしたドキュメント
- 要件定義書:どんなシステムを開発するのか具体化したドキュメント
- 基本設計書:要件定義の内容を実現するための機能を具体化した設計書
- 詳細設計書:システムの内部構造やデータの流れをまとめた設計書
- テスト仕様書:要件定義通りに機能するかどうかテストするためのドキュメント
- 現行の保守契約書
- 業務フロー図:業務の目的やプロセス、関連情報をビジュアル化した書類
- 課題をまとめた書類:現状残っているトラブル、引継ぎに時の懸念点などを記載
この他にも、外注先に資料を求められた場合はできる限り提供しましょう。
契約内容を見直す
既に外注している場合、他の保守会社に切り換える際には契約内容も見直しましょう。
例えば、利用頻度が低いソフトウェアやハードウェアは年間保守契約ではなく、スポットの契約にするのが無難です。不具合が発生した場合、保守ではなく新規製品を購入したほうが安くなる場合もあります。
このように、移管を機に契約内容を精査すれば、無駄な保守を依頼しなくて済みます。
【まとめ】保守移管の流れについて紹介しました
保守移管の流れと外注先の選び方、移管を成功させるポイントなどについて紹介しました。まとめは以下の通りです。
- 保守を移管すれば、システムの品質向上とコストカットを期待できる
- 外注先を選ぶ際には保守実績、業績の安定度、担当者との相性を考慮する
- スムーズに移管できるよう引継ぎ資料を準備する
- 外注先を変える際には既存の契約内容を精査する
保守は安定したシステム運用をする上で大切ですが、外注先の対応が悪かったり自社で保守したりすれば、満足できる保守はできないでしょう。1つ対応が遅れたら売上げ損失や損害賠償などの問題に発展しかねません。
本記事を参考に、信頼できるベンダーに保守を移管しましょう。
なお、保守を移管できる会社の探し方・選び方がわからない!という方はシステム幹事にお気軽にご相談ください。貴社の目的・予算にあった最適な会社を厳選してご紹介します。相談料・会社紹介料などは無料です。
この記事を書いた人
喜多村道秋
専門分野: ITインフラ
新卒で大手インフラ企業に入社。約10年間、工場の設備保守や運用計画の策定に従事。2018年からSEOブロガー・ライターとして活動を開始。「相手に伝わる文章を書く」を信条に執筆しています。
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